【全文掲載】巨人の真相・覆面記者座談会

長らく球界の〝盟主〟と呼ばれ、前掲オリックス・宮内オーナーも〝球界再編〟の折にはその位置づけを「野中の一本杉」(『論座』04年12月号)と評した特殊な球団、巨人軍。

山口壽一オーナーと原辰徳監督の関係性から見えてくるパワーゲームの真相とは──。


A スポーツ紙番記者

B 一般紙スポーツ部

C 一般紙社会部。G党


 交流戦が終わって目下、首位。いろいろ取り沙汰されてきた原監督としたら万々歳なんじゃない?

 確かに。「全権監督」の原さんはすでに背広組の人事権まで握っていて、一部には〝恐怖政治〟との声もある。これで成績が伴わなかったら空中分解しかねないところだよ。しかも彼の〝権力〟が及ばないポストは、いまや「球団社長」だけというのがもっぱらの見方だしね。

 そもそも、山口オーナーは、なんでそこまでの権限を渡しちゃったんだろう。だって、賭博問題のときに原さんを見限ったのは、他ならぬ山口さんでしょ? 〝コンプライアンスの鬼〟として法務畑から読売新聞のトップにまで昇りつめたあの人からしたら、スネに傷をもつ原さんなんて、いちばん戻したくなかった人物だと思うんだけど。

 腹のうちは本人のみぞ知るところだけど、単純にオーナー自身が熱烈なジャイアンツファンだというのが大きいんじゃないかな。ジリ貧の本業を盛りかえすためにも、かつてのような「強い巨人」の復権は大きな推進力になる。好きか嫌いかはともかく、監督としての実績は原さんの右に出る者はいないしね。

 そうそう。全権を渡すこと自体はある種の賭けではあるんだけど、見方を変えれば「もしものときは原に全責任を負わせられる」というメリットもある。ヘタに自分の息がかかった人間を入れておくくらいなら、すべてを〝外注〟にしてしまったほうがリスクヘッジにもなる、という判断もあるんじゃないかな。

 そう言えば、今年5月には『ミヤネ屋』のコメンテーターだった読売テレビ報道局の春川正明氏を国際部長に、6月には日本テレビの事業局長だった今村司氏を社長兼編成本部長に抜擢してる。グループ会社とはいえ〝本体〟以外の人間をトップに据えたのは異例だよね。

 それも「グループ全体で責任を負いましょう」っていう山口さんの意思表示なんじゃないかな。もちろん、叩きあげのテレビマンである今村さんを社長にしたのは、巨人戦のもつコンテンツ力の底上げを任せたいって部分もあるだろうけど。

 『日テレG+(ジータス)』という自前のプラットフォームがあるにもかかわらず、今年からは全主催試合が『DAZN』でも観られるようになった。これは読売グループにとっても大きな賭けだよ。聞くところでは放映権を渡すかわりに、制作を日テレ側で請け負う契約になっているとか。それを嫌ったフジテレビの意向で〝脱退〟することになったヤクルトとは対照的だよね。

 なるほどね。さすがは社内政治に長けた山口さんだけのことはある。本業の低迷を挽回するための布石を次々に打ちつつ、いざというときには原さんを捨て駒にできる算段も整えているわけだ。策士だね。

 いや、策士ぶりでは原さんのほうが一枚上手かもしれないよ? 周囲をあれだけ露骨に〝身内〟で固めているのだって、別に彼が「いい人だから」ってわけでは全然ない。ちゃんと目論みがあってのことなんだから、あの人は侮れないよ。

 そうだよね。コーチ経験のない宮本(和知)さんや元木(大介)を入閣させたのも、自身が関わってきた野球教室に協力的だったふたりへの、言わば〝論功行賞〟だともっぱらだし、一部ではタニマチの社名をとって〝ファンケル内閣〟だなんて声もある(笑)。昨季のドラフト直前に、スカウト部長が岡崎(郁)さんから長谷川国利さんに替わったときは思わず笑っちゃったよ。

 長谷川さんは、東海大相模&東海大ラインの直属の後輩。確かに分かりやすい構図だね。相模と言ったら、原さんが〝下野〟していた時期に、同じ神奈川つながりのベイスターズとも接近してたなんて、まことしやかな噂もあったよね。

 再登板の背景には、どうやらそれもあったみたい。と言うのも、実父・貢氏亡きいまも原さんの東海大グループへの影響力は絶大でね。それが証拠に、東海大野球部の監督が横井(人輝)さんから安藤(強)さんに替わったのは彼の意向だとも言われている。系列校の国際武道大には、師とあおぐ故・藤田元司氏の娘婿でもある岩井美樹監督もいるしね。そのあたりの東海大閥、神奈川県下の有力選手を根こそぎベイに持っていかれたんじゃ、巨人としては面目丸つぶれって話だから。

 原さん自身も客員教授として千葉の勝浦までわざわざ講義をしに行ってたぐらいだから、学閥の〝絆〟は相当強そう。人物相関図にまとめてみたら、おもしろいかもね。

 そりゃ、監督をやる以上は「優勝するぞ」ってポーズはとるだろうけど、すでに実績十分の原さんからしたら、仮にできなくたって支障はない。頭ん中は「監督後」のことでいっぱいだと思うよ。古巣の楽天が獲得を見送るほど深刻な状態だった岩隈(久志)を獲ったのも、小林(誠司)より炭谷(銀仁朗)を重用するのも、雑な言い方をすれば「恩を着せてる」ってことに他ならない。実際、恩義ある彼らはこの先ことあるごとに言うだろうしね。「自分があるのは原さんのおかげだ」って。

 球界なんて、結局は「誰が獲ってきた選手か」がモノを言う世界だし、原さんは本当にクレバーだと思うよ。まぁ、前回がスマートな辞め方じゃなかっただけに、本人的にもキレイに禅譲をしたいって思いもきっとあるんだろうけどね。

 そうやって地盤が盤石になれば、藤田派と対立してきた長嶋派の正当後継者たる松井秀喜という〝山〟も動くに動けなくなる、と。

 いや、そこさえ取りこむ余地を残しているのが、原さんなんだよ。本音はもちろん阿部慎之助。でもゴジラがその気になるなら、いつでも迎え入れる準備はある、と。ヘッドコーチを空けてあるのは、間違いなくそのためでもあるからね。

 いやはや、試合を観ているより全然おもしろいよ。おれもスポーツ部に異動願いを出そうかな。

 バカだな。こんなの深掘りしても書けない話ばっかでいっさい仕事にはならないよ(笑)。


『EX大衆』19年8月号 プロ野球「フロントvs現場」抗争秘話より


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